株式買取請求定款に基づく少数株主の保護

株式買取請求定款の概要と留意点

近年、コーポレート・ガバナンスの強化や少数株主の保護の観点から、会社法における少数株主の権利が注目されています。その中でも、少数株主が一定の要件のもとで会社に対して自己の株式の買取を請求できる権利である「株式買取請求権」は、少数株主にとって重要な権利の一つとなっています。本稿では、この株式買取請求権を定める「株式買取請求定款」の概要と、その内容を検討する際の留意点について解説します。

１．株式買取請求定款とは

株式買取請求定款とは、会社法上、少数株主が一定の事由が生じた場合に、会社に対して自己の株式の買取を請求できる旨を定めた定款の条項を指します。株式買取請求権は、会社法において定められた権利ではなく、定款に規定することによって初めて発生する権利です（会社法166条1項）。

従来、株式買取請求権は、合併、会社分割、株式交換といった組織再編や、事業譲渡など、少数株主の意思にかかわらず、その権利に重大な影響を及ぼす可能性のある場合に、少数株主が会社から退出し、投資資金を回収するための手段として認められてきました。しかし、近年では、経営方針の変更や重要な財産処分など、少数株主にとって不利益となる可能性のある事案についても、株式買取請求権を認めるケースが増えてきています。

２．株式買取請求定款のメリット・デメリット

(1) メリット

株式買取請求定款を設けるメリットは、主に以下の点が挙げられます。

少数株主の保護：少数株主は、経営支配権を持たないため、経営上の重要な決定に際して、自身の意に反する決定がなされる可能性があります。株式買取請求定款を設けることで、少数株主は、自己の権利が侵害される可能性がある場合に、会社から退出し、投資資金を回収することができます。

経営の機動性の向上：会社側は、株式買取請求定款を設けることで、少数株主の反対を懸念することなく、機動的な経営判断を行うことが可能となります。少数株主の反対によって、事業戦略の実行が遅延することを避けることができます。

企業価値の向上：株式買取請求定款は、少数株主の権利保護を強化することで、投資家からの信頼を高め、企業価値の向上に繋がる可能性があります。また、少数株主との無用な対立を回避することで、企業イメージの向上にも繋がります。

(2) デメリット

一方、株式買取請求定款を設けることによるデメリットとしては、以下の点が考えられます。

会社にとっての経済的負担：会社は、株式買取請求権を行使された場合、自己資金や借入金を用いて、株式を買い取らなければなりません。多額の資金が必要となる場合もあり、会社の財務状況が悪化する可能性があります。

経営への影響：株式買取請求権の行使が相次いだ場合、会社の資本金が減少する可能性があります。また、経営陣が株式買取請求への対応に追われ、本来の業務に支障が生じる可能性もあります。

３．株式買取請求定款の内容

株式買取請求定款の内容は、会社法上、特に制限されていません。そのため、会社は、自社の事業内容や規模、株主構成などを考慮して、柔軟に内容を定めることができます。ただし、実務上、一般的に定められる内容としては、以下の点が挙げられます。

株式買取請求権の発生事由：合併、会社分割、株式交換、事業譲渡、定款変更など、少数株主の権利に重大な影響を及ぼす可能性のある事案を具体的に列挙します。

株式買取請求権者：株式買取請求権を行使できる株主の範囲を定めます。一般的には、一定の議決権比率以下の少数株主を対象とします。

株式買取請求の手続：株式買取請求の期間、方法、提出書類などを定めます。会社法上の手続と異なる手続きを定めることも可能です。

株式買取価格の決定方法：株式買取価格の算定方法を具体的に定めます。一般的には、裁判所の鑑定、第三者機関による評価、直近の株価などを参考に決定されます。

４．株式買取請求定款を検討する際の留意点

株式買取請求定款を検討する際には、以下の点に留意する必要があります。

バランスの取れた内容：少数株主の保護と会社の経営の機動性のバランスを考慮する必要があります。少数株主の権利を過度に保護すると、会社の機動的な経営を阻害する可能性があります。逆に、会社の経営を重視しすぎると、少数株主の権利が不当に侵害される可能性があります。

明確な条文：株式買取請求権の発生事由、株式買取請求権者、株式買取請求の手続、株式買取価格の決定方法などを明確に定める必要があります。あいまいな条文は、後々の紛争の原因となる可能性があります。

専門家のアドバイス：株式買取請求定款は、会社法や証券取引法など、専門的な知識を必要とする条項です。弁護士や公認会計士などの専門家のアドバイスを受けることが重要です。

株式買取請求定款は、少数株主の権利保護と会社の機動的な経営の両立を図る上で、重要な役割を果たします。会社は、自社の状況に合わせて、適切な内容の株式買取請求定款を定める必要があります。